2023/09/27

忙しい。「すべての労働は売春である」(ゴダール)なんとなく反芻している。売春ほど非対称な「忙しさ」なのかといわれると、無論そんなことはない。働きながら売春、売春と憎悪を堰き止めるのも、売春に申し訳ないだろう。

 

ちなみに「ブルセラ」という商品の「売り手」と「買い手」が誰か、という問いについても誤解を正しておかなければなりません。「ブルセラ」の市場は、「ブルセラ・ショップ」という性産業によって媒介されています。性産業のなかではビジネスの経営者はしばしば(以上に)男であり、かつ消費者も男です。買売春をふくむ性産業は、誤解を受けているようですが、「女が自分の性を男に売る」ビジネスではなく、ほとんどの場合「男が男に女の性を売る」ビジネスです。「商品」である女には客を選ぶ権利はありません。買春を売春といいくるめるのは──事実、今でもわたしのワープロでは、「ばいしゅん」とうちこめば「売春」はすぐに出てきますが、「買春」は出てきません──「買う男」の責任を「売る女」に転嫁する、ことばのマジックにほかなりません。そこでは「売る女」がスティグマ(烙印)を与えられます。

上野千鶴子『発情装置』(2019 岩波現代文庫 22頁)