2023/11/08

金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』を読む。終盤味の薄くなったオレンジジュースに文学的なフェティッシュを感じて嬉しくなってしまう。たとえば、『桜の園』や『ブレックファスト・クラブ』における精神的去勢を描くワンショットなんかを思い出したりしていて、つまり、過去には戻れないのだ、ということだけれども、それらこれ見よがしに配置された決定的瞬間ではなくて、あくまで何気なく、物語を邪魔しないように配置された氷だらけのオレンジジュースにただならぬ意味を読み込んでしまって、いけない。

思えば金原ひとみ初期における自己との葛藤、母である/母になることの葛藤(特に『マザーズ』を思い浮かべている)、そして母/娘の葛藤のみならず娘の視点から彫琢される母の姿という変遷が、凡庸ながら著者の変遷とも重なっていて、凡庸な見立てながらグッとくるものがある。とはいえ、分かり合えない他者と「私」はいかに折り合いをつけていくか、割り切れない人生とどう向き合っていくかというテーマは最初期から一貫していると思うけど、初期の攻撃的なフラグメントの間歇的応酬に比べると、物語を志向していると思う。この場合物語とは、他者やコミュニティー、とパラフレーズしてもよい。最近の金原作品は連帯への志向性が強く、初期から考えると(いい意味で)信じがたい。

読書会の課題本だったので本屋さんでさくっと手にとると、ユリイカの特集が金原ひとみで即買った。